母が亡くなった後、がんの治療法に関する本をかたずけているとジュエリーボックスのアクセサリーの中から古い指輪が出てきました。確かその指輪はもともとアクセサリーメーカーで購入したものだったと思います。
長らく見かけなかったその指輪は、私が幼い頃に母が身につけていた乳白色のオパール。
「これは、お姉ちゃんの形見の指輪」と聞かされていたので、母にとっても思い入れのあるジュエリーに違いありませんでした。
どんな時も身につけていたので、オパールの表面には傷が入り、光沢も失せておりました。
それでも角度によっては遊色が見られ、赤や緑の内から放たれる色味に、この宝石の奥深さを感じたものです。
さすがに晩年はジュエリーとしての価値も認めず、箱の中に仕舞ったままのようでした。
いくらの価値もない古い指輪ですが、知り合いの宝石商に相談して磨いてもらうことにしました。
今ある台座を外して研磨すると、もしかすると石が割れてしまうかも知れないと言われましたが、出来る限り輝きを取り戻して観たかったのです。
数日経って、古いオパールは綺麗に光沢を取り戻した状態で手元に届きました。
折角なので新しい台座に据えて、私の指につける指輪にしよう。そう考えて大きさの合う台座を選びました。
傷だらけだった、幾らの価値もないオパールは、少々立派に見えるプラチナのリングに据えられて生まれ変わりました。
この指輪を身につけるたびに、遠い日の母との思い出が蘇ってきます。